研究室TOP > TOPICS > 2017/03/08

「船舶の運航自動化に関するワークショップ −故きを温ねて新しきを知る−」の報告

海上輸送システム研究室(教授) 安川宏紀

「船の自動化,無人化」については近年話題に上ることが多く,いくつかシンポジウム等が開催されています。しかし,私にはちょっとした不満があります。それは,

  • 過去の研究開発における実績への言及があまり無いこと
  • 運航自動化の実現に向けて,真の技術課題や将来の方向性が分かり難いこと
  • です。そこで,この辺の話しをしていただける専門家をお呼びして,議論する場を設けるべく,表記ワークショップを企画しました。サブタイトルは「温故知新(故きを温ねて新しきを知る)」ですが,最新の技術動向についても話をしていただきました。

    ワークショップは,平成29年3月8日(水)13:00〜17:30,広島大学工学部219講義室にて,4人の講師をお招きして,開催されました。

    最初は,広島大学名誉教授小瀬邦治先生より,「運航自動化への取り組みと今後の課題」と題した講演が行われました(写真1を参照)。小瀬先生は運航自動化の分野における我が国パイオニアの1人であり,約30年前には「高信頼度知能化船」の開発事業,20年前には内航近代化船「翔陽丸」に搭載した避航支援システムの開発に取り組んでこられました。発表で使われたパワーポイントのコピーをこちら [PDF] にUPします。

    写真1: 小瀬邦治先生の御講演の様子

    2番目は,海上技術安全研究所の福戸淳司様より,「自律船に向けた技術課題と開発研究の方向性について」と題した講演が行われました(写真2を参照)。講演によると,自律航行を実現する技術はある程度そろっているように見受けられました。また,海外では自律船の開発に向けて様々な動きがあるようですが,国内では近年目立ったプロジェクトが無いようであり,少し心配になりました。発表で使われたパワーポイントのコピーをこちら [PDF] にUPします。

    写真2: 福戸淳司様の御講演の様子

    3番目は,水産工学研究所の松田秋彦様より,「複数の模型船を用いたロボット船舶の検証システム」と題した講演が行われました(写真3を参照)。水産工学研究所の角水槽では,複数隻の模型船を同時に走らせるとともに,それぞれの船の運動を計測し,かつ舵角とプロペラ回転数を制御できる新たなシステムを開発しました。今までは,船が多数航行する輻輳海域を安全に航行できるかどうか,具体的に検証するには,シミュレーション計算が唯一の方法でしたが,新たに自由航走模型試験という方法が追加されました。発表で使われたパワーポイントのコピーをこちら [PDF] にUPします。

    写真3: 松田秋彦様の御講演の様子

    最後は,大阪大学教授長谷川和彦先生より,「船舶の自動避航システムと自動着桟システムについて」と題した講演が行われました(写真4を参照)。長谷川先生は,平成29年3月末で御退官されます。
    退官に際しての記念講演という意味を含め,長谷川先生がやってこられた研究の成果を中心とした講演となりました。発表で使われたパワーポイントのコピーをこちら [PDF] にUPします。

    写真4: 長谷川和彦先生の御講演の様子

    以上を踏まえ,独断を交えて本ワークショップを総括します。

    1. 船舶の自動航行に関わる基本的な技術やアイデアは,過去の研究開発の蓄積の下,ある程度そろっている。加えて,新しい試験技術,情報・制御技術が登場している。しかしながら,実用化に当たっての詰めが十分ではない部分がある。
    2. 世界的にAI技術への関心が高まっている中,我が国の船舶の自動航行分野への関心は,欧州等と比べて低いように感じられる。その理由は,船舶の自動航行技術へのある種の不信のため,前向きの議論がし難い状況が存在するためと考えられる。これは払拭すべきである。
    3. 一方,この分野の将来を鑑みるとき,我が国は造船・海運大国として,自動運航技術を深化させ,世界をリードすべきである。そのためには,必要な技術開発とそれに関わるルール作りを戦略的に進める必要があり,それに向けての方針や具体案を策定する“戦略本部”の設置が望まれる(その際,自動車産業の取り組みが参考になろう)。

    今後もこの分野の発展のため,微力ながら,尽力したいと思います。

    長谷川和彦先生は,平成29年3月末で大阪大学を御退官されます。そこで,懇親会の場において,広島大学からの記念品をお渡ししました(写真5参照)。長谷川先生のような我が国を代表する船舶操縦性研究者が退官されるのは寂しい限りです。我が国の船舶操縦性研究者は,今や絶滅危惧種ではなく,絶滅確定種といわれていますが,残されたものはがんばるしかありません。長谷川先生は,退官後,大阪大学の米国サンフランシスコ・ブランチの代表に就任される予定です。先生の御健康と御活躍を祈念いたします。

    写真5: 広大からの記念品を持つ長谷川和彦先生