ITTC2011の出席報告
海上輸送システム研究室(教授) 安川宏紀
1.はじめに
8/28(日)から9/3(土)の約一週間,ブラジルのリオデジャネイロで開催された26th International Towing Tank Conference(ITTC; 国際水槽試験会議)に出席した。筆者は,ITTCの操縦性委員会(Manoeuvring Committee; MC)のパシフィック地区(主に日本,オーストラリア地区)委員であり,その委員会の3年間の活動報告のために出席した。
ITTCは,3年毎に開催されている水槽設備を持つ機関,大学,企業等が参加する国際会議であり,戦前から続いている伝統のある会議である。ITTCは特定の学会が主催するものではなく,ボランティアベースの運営がなされていることを特徴とする。ただ実際には,アメリカのテイラー水槽や,オランダのMARINのような大きな水槽設備を持つ機関が会を主宰している。
ITTCは水槽を持つ機関の寄り合い会議であり,水槽試験やそれに関わる技術情報の交換,問題点の共有化ならびにその解決を目的としている。具体的には,次のような活動を行う。
ここでは,筆者の独断と偏見を交えながら,ITTC2011におけるMCでの活動について報告する。
2.ITTC2011の参加者等
ITTCの参加者は約250名(同伴者を含む)であった。参加者の多い国を列挙すると次の通りである。
中国: 41 ブラジル: 37 日本: 22 韓国: 18 米国: 17 英国: 17 イタリア: 8 ドイツ: 7
主催国であるブラジルよりも多くの参加者があったのが中国であり,良くも悪くも目立つ存在であった。(良い点: 積極的に質問すること,悪い点: 質問のレベルが低いこと)
次回のITTC2014は,デンマークのコペンハーゲンで行われる予定である。
3.操縦性委員会からの報告
3.1 MC委員
MC委員を次に示す。
もう1人の委員であったEvgeni Milanov(BSHC, Bulgaria)は途中から出席しなくなった。その理由はプライベートなもののようであるが,委員には明らかにされなかった。
3.2 MC報告書目次と発表
3年間のITTC活動の成果は,委員長のアンドレスが報告した。下の写真は,その様子である。(アンドレス委員長以外の委員とチェアウーマンはひな壇に座っている。質問には,それぞれの委員が応える。)
写真: 操縦性委員会からの報告の様子
報告書の目次を次に示す。
- Introduction
- Progress in experimental techniques
- Progress in simulation techniques
- Benchmark data and capabilities of prediction tools
- Manoeuvring and course keeping in waves
- Manoeuvring in confined water
- Uncertainty Analysis
- Scale effects
- Slow speed manoeuvring models
- Procedures
- Conclusions
- Recommendations
この報告書は例年のものと大差ないが,「8. Scale effects」,「9. Slow speed manoeuvring models」の章が追加されているのが特徴である。8.は操縦運動における模型船・実船の縮尺影響について議論したものである。結論は,現状では良く分からないというものであるが,今後一層の調査・検討が必要である。問題なのは操縦運動に関する公表された実船データが少ないことであり,今後実船データの収集が必要であると思われる。9.については,海洋関係の問題,例えば,係留時の振れまわりの問題等を念頭に主いたものである。
なお,アンドレスが,発表で使用したパワーポイントのpdf-versionをupした。興味のある人はこちら [PDF] を参照頂きたい。彼のプレゼンでは,CFDはpromisingという言葉が多く,それはご愛敬と言うところである。委員長の趣向が出てしまうことは致し方ない。
4.所感
まず,ITTCの本会議についての感想を述べる。ITTCの本会議に全部出席したのは,これが始めてであったが,基本的に良くできたものであると思った。愛媛大学の土岐先生は,「水槽試験関連技術の3年の進捗,最新技術トレンド,問題点等が一週間で分かる」といわれたがその通りだと思う。にもかかわらず,日本の大きな水槽を持つ機関からの出席がないもしくは少ないのはどうしたことか。「貧すれば鈍する」,「成長戦略の欠如」,「ガラパゴス化」等の言葉が頭をよぎった。私は,ある先生が以前に述べた「ITTCは政治の場」をあまり意識することなく,「ITTCは水槽を持つ機関の寄り合い会議」として,フランクに問題点や標準化を語れば良いように思った。日本は少し構えすぎかもしれない。
最後に,MC委員としての感想を述べる。6年間MC委員をやってきたが,学問的にはあまり得ることがなかったように思う。それは,ITTCがアカデミックな場ではないので,仕方がないのかもしれない。ただ,それ以上に楽しい思い出が沢山できたように思う。委員各人が密に接しながら,報告書やマニュアルを作り上げて行くので,主に文化の違いによるユニークなことが起こる。そのような人とのふれあいを楽しむことができた。ITTC総会のMC報告が終わったときには,何となく寂しい思いがした。
※ おまけ: 読みたい人は,こちらより御覧下さい。