深水域ならびに浅水域におけるフラップ舵とサイドスラスタを有する船の水槽試験報告
海上輸送システム研究室 山下寛雄
2023年12月11日~12月20日,2024年2月19日~2月22日,3月4日~3月8日の約4週間の日程で実施した,MFLP(フラップ舵とサイドスラスタを有する研究対象船の愛称)模型船の自由航走試験についてご報告いたします。この試験は水産技術研究所の海洋工学総合実験棟と波浪平面水槽実験棟の水槽をお借りして行いました。特に,港湾や運河のような浅水域での操縦運動を想定した波浪平面水槽実験棟での試験は,深水域とは異なる船の特性を明らかにするため大変重要です。ここでは浅水域の水槽試験をクローズアップしてお伝えします。図1に波浪平面水槽実験棟内部の写真を示します。
図1: 波浪平面水槽実験棟
使用した模型船(MFLP)は,高揚力の特殊舵のひとつであるフラップ舵を有し,船の横方向に力を発生させる推進機としてバウスラスタのみならずスタンスラスタを備えている点が大きな特徴です。そのため,通常舵かつサイドスラスタを持たない船が単独では実現できない横移動に代表される運動も可能です。今回は,浅水域における操縦運動特性,浅水域かつ低速時における湾内操船を想定した操縦運動特性を把握することを目的として,船速や水深ごとに,旋回,Zig-Zag試験といった基礎的な操船から,サイドスラスタのみを用いた旋回や舵を切るタイミングでプロペラ回転数を変化させる旋回などの特殊な操船まで幅広い種類の試験を実施しました。より現実味のある操船シナリオを再現するため,岸壁模型と模型船を平行に保ちながら離着岸をする試験では時間の許す限り徹底的に試行錯誤を重ねました。その様子を図2に示します。今後得られたデータの解析を進め,浅水域における運動メカニズムを解明することで,操船補助や自動運航の技術へ応用されることが期待されます。
図2: 岸壁模型を用いた離着岸試験の様子
水産技術研究所での自由航走試験では,深水域,浅水域の両方でカタパルトによる打ち出しを行っております。錘を入れた箱を落とすことで箱につながれた紐が模型船を押し出す仕組みです。これは運動開始時の船速のばらつきを小さくし,再現性を持たせるために導入したものです。浅水域用のカタパルトは,昨年(2023年)より刷新しております。これにより作業効率が向上したうえ,所定の船速を得られないことによる再試験の回数が減少し,以前よりも短時間で多くの試験を実施できるようになりました。また,今回から水位計を新しく導入しております。浅水域での試験は水深による運動の差が浅くなるほど顕著であり,正確な水深計測が求められます。昨年までは波高計に複数の機器を接続することで計測を行っておりましたが,組み立てや使用方法が煩雑であるという問題がありました。これを解消するため,円筒形の測定部を水槽に直立させて専用コードをデータロガーに接続するだけで設置が完了し,リアルタイムで電圧の瞬時値をモニタリングできる農業用の水位計を使用しました。水位調整にかかる時間を短縮する効果があり,より多くの時間を水槽試験に割くことができるようになりました。図3に今年度の水槽試験効率化に貢献した浅水域用カタパルトと水位計を示します。
図3: 浅水域用カタパルトと水位計
以上で今回の水槽試験に関するご報告を終えさせていただきます。筆者はまだまだ未熟の身です。今後も水槽試験に限らず,諸々の研究活動に邁進していく所存です。実験を行うにあたり親身になって数々の課題解決にご尽力いただいた水産技術研究所の松田さん,貴重な機会をくださった安川先生,様々なサポートをしていただいた奥田さん,共に本船の実験に励んだ伊藤さん,竹中さん,北村君,小島君,和田君にはこの場を借りてお礼申し上げます。ありがとうございました。
最後に本研究室の強みをご紹介させていただきます。本研究室では,試験条件設定と計測の隊長,模型船打ち出しのカタパルト係,模型船操縦のプロポ係に分かれ,各々がスキルを習得することで水槽試験を滞りなく実施できる体制が構築されています。このシステムには学外で水槽試験を実施するにあたっての知識や技術をスムーズに身に着けることができるほか,チームワークを高める利点があります。実験以外では食事シーンが一番のハイライトになることが多く,筆者にとっては遠征の楽しみの一つです。一年間の思い出から厳選した写真を図4,図5に示します。笑顔の絶えない,賑やかな研究室であることを誇らしく思っております。
図4: 『プれンティ』名物のパフェが複数並んだ圧巻のテーブル
(左: 季節限定パフェ / 右: 普通のパフェ3つ)
図5: 犬吠埼での記念写真